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 ――小惑星を覗くように

 連休の中日。とあるファーストフード店の2階席は、無軌道に遊ぶ子供達で埋め尽くされていた。携帯ゲームとカードゲームとマンガとフィギュアとベイブレードがごっちゃになった空間の中に、喜怒哀楽を120%解放している暴君達と、それを放置している母親が奇跡的にマッチしている。僕は、税込み530円のセットが載ったトレーを持ったまま5秒間停止した後、あらゆる意味で汗をかきつつ、奥の4人席を目指して歩き始めた。床でMTGをやっている4人組に何とかどいてもらい、細い通路を抜けると、さっきまでの喧噪が遮断された高級感のある個室が現れる。「……なんだ、お前?」座っていたのは2人。1人は今話しかけてきた、ナルトが悪に染まったらこうなるんじゃないか、というような風体の男の子。ドクロのバンダナが似合いすぎていて面白い。もう1人は、青いタオル地のパジャマにカーディガンを1枚羽織った女の子。こちらは邪気のない目をしていて、場所が場所なら姫様と忍者の組み合わせに見えないこともないだろう。「ここ、良いかな?」「ざけんな」男の子が、凄まじい悪意を込めた目で僕を見上げる。「どうやって入ってきたんだよ」「表の子達にはどいて貰ったよ。地べたに座ってギャザは良くないよね。心象が悪い」「そういう問題じゃねえよ、ここは」「どうぞ」女の子が、落ち着いた声で言った。男の子は舌打ちをしながら、椅子だけを足先でこっちに押しやる。僕はトレーを椅子の上に置き、見上げてくる女の子の澄んだ目を見た。「お食事、なさるのではないんですか?」「なさるさ、話が済んだらね」言うと、ズボンの右ポケットに納めていた質感が、ふっと消える。「姉ちゃん、こいつワイヤー持ってるぜ」キリキリキリ、という定番の音を軋ませて、男の子……弟くんが吐き捨てるように言った。「こんだけ研いでりゃ、人だって一瞬でバラせるかもな」「まぁ怖い」女の子は上品に笑って、フライドポテトを一口含んだ。「お話って、何でしょう?」僕は出来るだけ穏やかに微笑みながら、手に大量の汗を握りしめて、こう発言する。「××××を見せて欲しいんだ」「………………へ?」一瞬の混乱、そして。僕は少女の視点に飛び込む。≪――4年後。少女は相応の成長を遂げ、炎上するビルを眺めながら、弓を引く子供達を従えている。高層ビルには救助のために駆けつけた組織の人員が派遣されるが、その全てを黄金の弓矢で射抜いてしまう。彼女はしばらくその行動を続けると、覚悟したように悠然と微笑み、鎖時計を取りだした。逆進する時計は、そろそろ正午を指そうとしている。子供達は煤と涙にまみれた顔で寄り合い、機動部隊に囲まれると、歯に仕込まれた起爆装置を――≫意識が途切れる。弟くんは、僕のオーダーしたジンジャーチキンサンドに無言でかぶりつきながら、放心した姉との射線を遮っていた。「この場合、お姉さんがませていて、キミが立派だったって事になるのかな?」「今のは何だ」「占いだよ、ちょっとした」「ざけんな」脂汗を浮かべながら肉を咀嚼する弟くん。「子供向けの味付けじゃなかったみたいだね」「アレが未来か」「近似値だよ。そうなる確率が高いって言うだけのシミュレーション映像さ。キミが介入したからそうなった」「くそくらえだ」「そうだね。彼女をあんな風に死なせちゃいけない。健闘を祈るよ」言って、僕は弟くんのポテトをひとつまみした後、ワイヤーを回収し、表の通路に出てから、事の子細を端末に打ち込み始めた。報告が終わる直前くらいで意識を回復した女の子は、恐らくまだ直立したままであろう弟くんにこういった。「……あの、男の人は?」彼は、子供らしからぬ苦々しい声でこう返した。「ある種の変態だった」

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