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「で、何なんだ一体」
いつもの帰り道、手を繋いで、と言うわけでもなく2人で通学路を下りていく。
「ちょっとね、告白でもしてみようかと思ったのさ」
「私は気でも触れたのたかと思ったぞ」
「嬉しいね、そこまで喜んで貰えたとは」
日暮は眉間にシワを寄せて、溜め息をつく。
「そういう軽口を叩くって言うことは……やはり違うんだな」
「いや、告白は告白さ。隠していることを話そうって言うんだからね」
僕は立ち止まり、横道に出来た小さな階段を指差した。
「この上がどうなってるか知ってるか?」
「小さな社がある、とだけな。それに関連した七不思議も有ると訊くが」
「それは初耳だ。まぁ、僕が言いたいのは、今はもう少し開けていて、密着するには都合の良い小さなベンチがあるというだけなんだがね」
「お前が座って話せ、犯人なんだから」
「犯人違う」
「お前は生まれたときから犯人だよ。私には分かる」
ひどい推理だ。そんな探偵が居たらCMをまたがずに事件を解決してしまう。お茶の間の敵になってしまいそうだ。
しかも、遠からず当たっているところが恐ろしい。
「さて」
湿っぽいベンチに腰掛けて、僕は日暮優の視線と向き合った。見つめ合うカタチだが、この状態ではときめきも何もない。鬱蒼と茂るシダ系の樹木が、陰湿なフィルタで初夏の日射しを遮っていた。
「どこから話そうかね」
「全部だ。話の整理はこっちでやる」
「分かった。ならこちらも何とか、システマチックにまとめられるように努力するよ」
鞄の中からミネラルウォーターを取りだし、一口含む。水分が脳に拡散していくイメージを被せながら、短い話を始めた。
「今から開示する情報は2つ。どちらも、僕が突然学校から居なくなる理由だ」
「おう」
解決編の心構えが出来ているらしい。日暮はただ腕組みをして僕の目を見る。
「1つ、僕は一人暮らしだと今まで言っていたがね、厳密には違うんだ。妹がいる。たった一人の僕の家族で、普段はどこかの私立学校で寮生活を営んでいる。そして、生まれつき体が弱い。何か緊急の呼び出しがあったり、寂しいから電話されてみたり、気分が良いから散歩に付き合ったり、近くまで勝手に出てきたからお茶してみたり、……まあ大体がこんな理由だよ。ガッカリしたか?」
「いや」
短く切って、日暮は少し目を閉じ、何かを飲み込むような間を空けて言った。
「お前にしては随分と情報を公開してくれたな、と感心しているよ。自覚がないようだから、クラスでのお前の印象を教えてやろうか? ズバリ何を考えているか分からない、だよ。普通に振る舞えてるつもりなんだろうが、具体的な情報を何も持たせてくれないヤツは、逆に存在感が増すんだ。覚えとけ」
「……忠告、痛み入るよ。ただ、僕は間を繋ぐためだけのお喋りってヤツが苦手でね。自然とそう言う機会も減ったってトコロだが……、そういう印象を持たれてたんじゃ元も子もない、な。次の話はそこに関係が有る」
冷気を帯びた間が空く。コレは日暮のモノだ。真剣味という独特の緊張感を味わう。
「2つ、僕は特異能力者だ」
言って、一拍の確認をした。
「……魔法遣い、じゃないのか?」
「アレが23区から出てくるものかよ。国の管轄だし、僕はそんなモノに関われるほど大それた存在じゃない。ここの常識に沿って言えば『超能力者』に近いけど、それとは全く異なる存在だ。超は付かずに、『能力者』。ある感覚が常識の限界を超えてしまった人間が、現実世界面に何らかの作用力を及ぼせるようになったら、ここにカテゴライズされることになる」
「ふむ」
少し天を睨んで、日暮はゆっくりと背後の樹に体重を預けた。
「質問だ。視力が5.0の人間は能力者か?」
「違う。視力の回線が開いて、可視光域が異様に広がったらそう呼べるかも知れない」
「もう一つ。お前の素性はよく解っていないが、何か大きな組織とでも関わりがあるのか?」
「生憎、そういうスリリングな背景は持っていないね。ただ、ここよりは殺伐としたところの出身だったよ。それだけだ」
「その能力が本物で有るという証明は?」
「目には見えないが、お前に実感して貰うことは可能だ。気が進まないけどな」
「詐術でないと第三者に説明できるか?」
「こりゃ驚いた。解答が分かってなければ出来ない質問だぜ、それ。……やり方によっては可能だけど、そいつには永久に僕の秘密を守って貰わなければならなくなるな」
「そうか」
目を閉じて日暮は状況を整理し始めた。思っていたより話が早く、僕としては安堵する前に感心してしまう。こいつは、少なくとも僕よりはずっと賢いし、それを認めることに何の抵抗も湧かないほど、嫌味がない。聡い子どころか、恐ろしい女だと認識を改めた方が良さそうだ。
「整理しながら喋れるか?」
「効率は落ちるが、可能だ」
「単純なイエスノー問題だから、解答は相づちで良い。――1つ、お前は能力者か?」
「いや」
「誰かの後ろ盾があって僕を監視していたと言うことはないか?」
「いや」
「今話した内容は、お前の思惑とは違っていた?」
「ああ」
「この会話をしたことで、何かお前に利益があったか?」
「ああ」
「不利益があったか?」
「ああ」
「お前は今、僕の知らない情報を持っているな?」
「ああ」
「この会話をすることを第三者に知らせたか?」
「いや」
「お前は、僕の素性を本当は知っていたんじゃないか?」
「いや」
「問題の整理は出来たか?」
「ああ」
「なら訊こう。……お前は今、2つ以上ウソを言ったな?」
「――ああ」
ニヤリ笑って、日暮優は微笑んだ。……やっぱり恐ろしい女だったか。無害である確率が10%未満とは。しかも計算が早い。女ではこういうタイプの人種は珍しいと思ったが、居るところには居るモノだ。人生は分からない。
「3年前の今日」
「火曜日か」
「……お前の能力は把握したよ。大した女だ。普通に喋らせてくれ。とにかく3年前の6月17日……まぁ火曜日だが、その日に僕は人を死なせている。殺意があったわけじゃないが、結果として殺人を犯したということは事実だ。それまでは何てことのない力だと思っていたんだがね。遊びが過ぎた。余りにも意味不明な事件だから迷宮入りしたみたいだけど、世間的に見て決して安全な人間じゃない。……軽蔑したか?」
「犯人を相手に軽蔑したも何もない。自白したことを評価するだけだ。少しだけ安心させてやるが、私は警察関係者でも能力者狩りでもない一般市民だ。1人の友人として、お前を責める事なんて出来ない」
「理解が早すぎると会話の味ってなくなるんだな……思い知ったよ。行間と文脈をデザインするような会話は出来ないから、このままのトーンで続けるぞ。お前が予想してた話ってなんだ?」
「ん? このごろ起こっている不審者の事件だが。ホームルームでの説明を聞いてなかったのか?」
「いや、まぁ、聞いてたことは聞いてたが……なぜそれが僕と関係あるって思った?」
「言っただろう。お前は何を考えているかよく解らないフシがあると。今までのいかがわしい犯行を悔い改めるために私をここに呼んだと、そういうつもりで来たんだが」
………………落ち込んだ。
「それにな、証言も結構ある。お前にそっくりなニット帽の男が、情緒不安定な半笑いを浮かべながら、卑猥な言葉をかけて迫ってくるそうだ。有葉のヤツもそれに引っかかりそうだったのだが、通りがかりの力士が張り手をかまして助けてくれたそうだよ。現場に落ちていたひび割れたサングラスは海賊ブランド製で、身元の割り出しは困難だそうだ」
「……それと僕と何の関わりが有るんだよ。ていうかハタ迷惑な事件だな。そんなアブナイ奴が僕のそっくりさんだなんて信じたくもない」
「顔がソックリの奴は、大抵心が食い違ってるものさ。シャドウだよ」
「いっとくが、僕の夢遊病的犯行という説は却下するからな。そんなマンガみたいな話があってたまるかよ」
「とりあえず現場を検証するか」
「話を聞いてくれ」
「有葉も呼んである。解決編のつもりだったが、ただのゼスチュアになりそうだな」
「僕の告白を無視する気か」
「残念だけど、縁がなかったと思ってくれ。私にはお前とつきあえない理由が有るんだ」
「何だよ」
「彼女が居る」
「………………」
「泣くな」
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