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 ――ライフ・ログ・アウト

 久我峰透には、8人の友達がいる。『殺し屋』、七海尊士。『干渉者』、飯泉式。『試験官』、恋ヶ縁幽全。『詐欺師』、帯沼友好。『発明家』、中村小隊。不本意ながら頭数に入ってしまっているこの僕、『代理人』、有賀悟史。そして、――『誘拐魔』、木乃葉在良と、『外科医』、峠午前。この幕の主役は、後に述べた2人なのだろうと思う。先月、峠午前の「反抗期」で行われた戦闘は、僕自身にも忘れられない傷をもたらしたが、久我峰は友達の1人、よりによって『誘拐魔』の木乃葉を拉致されてしまった。僕自身はこの8人に対して面識の無い人間の方が多いのだが、それでも束の間、一緒に戦った仲間だ。彼女の姿と言動は良く憶えている。変人ばかりを揃えた「お友達」の中で、唯一まともに会話できたのが木乃葉在良だと言っても過言ではない。……とにかく、あの後味の悪い決戦から半月経って、久我峰は峠午前に使者を送り、昨日その返事が帰ってきた。結果は、停戦と降伏。峠午前には今後一切干渉しない事を条件に、木乃葉在良の身柄を解放する――、それが決断だった。被害の規模からすれば引き分けと言えなくもないが、常勝を心がけてきた久我峰にとっては、敗北としか写らないだろう。七海のヤツはたいそう憤っていたが、結局はその指示に従った。絶対命令権を持つ久我峰を恐れて、というより……友人の無事を願って折れた、と僕は見ている。その時、異端者ばかりを揃えた彼らが、予想を上回る結束の強さを見せたことに対して、僕は驚きと、尊敬と、同情と、後悔を禁じ得ない。「――行くわよ」珍しく、呆けている僕に毒舌を吐かず、久我峰が荷物を持つように急かした。バスケットの中には、半透明な包み紙と、世界各国、あらん限りの種類を集めたんでは無かろうかという勢いで、様々なチーズが載せられていた。「……これって?」「好物よ、木乃葉の」それだけ言って、不機嫌に、かと言って覇気はない足取りで、前を歩き始める。「なぁ」少し不安になって、声を掛けた。「何で僕だけなんだ? 七海はともかくとして、せめて飯泉だけでも」「無理よ」短く切って、「みんな行きたくないって。あたしも……そうね、アンタ以外は連れていきたくないわ」少しだけ見えた横顔は、翳っていた。「理由は?」「キレちゃうからよ。たぶん、1秒と保たずにね」……まぁ確かに、裏切り者に対して寛容な精神を持っているようなメンバーではないか。それこそ、峠午前くらいだったと思う。そういう状況に対処できたのは。「お見舞いに行くんだから、アンタも逆上なんかしないでよ? 木乃葉がびっくりしちゃうわ」「彼女……やっぱり負傷してるのか?」「今は治療を受けて、傷自体は治ってると思う。『外科医』の側に居るんだしね」だから心配だ、という感情もあったが……なるほど、取引の材料にするくらいだから、下手に痛めつけていると逆効果ってことか。「ここよ」「へ?」数分も歩かない内に、ボロい雑居ビルの前で立ち止まった。展開からして、どっか山奥の怪しい施設に引っ込んでるものだという予想が、小気味よく裏切られた形だ。「ねえ」久我峰が、沈んだトーンで言い、「今から振り返るけど、あたし、笑いたいんだ」「……は?」「笑いたいのよ」意味が分からず、僕は久我峰の肩に触れようとして、「駄目ッ!!!」尋常じゃない勢いで、払い落とされた。「読まないで! 今のあたしをトレースなんかしないでッ!! そんなことしたら、――死んでやるんだからッッ!!!」絶叫。悲鳴。どちらだろうか。肩の震えから見るに、恐らく両方。冗談抜きの警告だ。その後、数秒経って。呼吸を充分に整えてから、振り返る。見たこともない、可憐な微笑みをたたえた彼女が、そこにいた。「90点だ」「減点の理由は?」「涙と、血だ」「……血涙?」「ばか、お前、唇を噛み千切ってんだよ」

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