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 ――まじかるばなな

 塾の帰り道、ボクが近所のトレーダーに寄って中古ソフトを検索した後、あとどのくらい貯めれば魔女ッ子プリンセス・ファンキーめめたんを買えるのか脳内会議しながら、近道用の路地に足を踏み入れた時だった。「よす」不気味に明るい発音で声を掛けてきたのは、3組の池田山くん(顔面ピアス10ヶ所)ほか、非常にアグレッシブな趣味を持っていそうな、改造制服の人たち約5名。「滝ちゃん」「はいなんでしょう」「サイフちょーだい?」未来が3秒で暗転するような会話だった。一駅を歩いて節約しながらガシャフィギュアをコンプリートするような、アレげ少年特有の苦労を説いたところで、この鼻ピアスくんには通じないだろう。ボクは瓶底メガネをガチガチ言わせながら、意味不明の発声を繰り返す取り巻きさん達をただ力無く眺め、絶望的な気分でホールドアップしていた。心の中では何度も鉄山靠をかましていた。拳児ライクに崩拳を叩き込んでいた。実際は小さくジャンプして小銭を回収されていた。ボクの財布はポイントカード一式をぶちまけられた後、何度かストンピングを食らってぐしゃぐしゃのへにゃへにゃになっていた。嵐のような儀式が終わり、彼らは意気揚々と引き上げていった。ああ、またトラウマが1つ増えたな、と思っていると、「――天罰ッッ!!!!」爆音と共に空から墜落してきた少女は、間違いなくそう言って、ラメラメのピンクなステッキで池田山くん(享年14才)を粉砕した後、取り巻きの皆さんをドクロちゃんの如き手際で葬り去っていった。「大丈夫?」アニメヴォイスでそう微笑む彼女。ふりふりの衣装にはタールのような赤い血がべっとりと張り付いている。少女がさくらたん似のツインテールっ娘でなかったら、とうの昔に失神していただろう。「ひどいなー、めめたんの限定トレカをこんなグシャグシャにするなんてー」財布よりもそこに同情したあたりで、何かのシンパシーを感じた。頭頂部を粉砕した彼らから、サイフを抜き取って舌打ちしていく様は見なかったことにした。「私、桜花。さくらたんにハナでオウカ。鏑木町出身の魔法遣いよ」さくらたん似の彼女はそう名乗って、天使のような微笑みでボクに握手を求めてきた。リアル魔法少女!!「あなたは?」「ぼぼぼ、ボクは滝――」「魔法遣いになりたくない?」自己紹介を遮って繰り出された提案は、想像の斜め上を行ったため、理解にしばらく時間が掛かった。「きっと楽しいよ?」天使のようなスマイルで、ボクの返事を待つ桜花。星形のラメステッキからは、まだ鮮血が滴っていた。「なりたいです」「よっしゃ」彼女はそう言った勢いで背伸びをすると、頬と下顎の境目くらいに鮮烈なキッスを見舞った。目が沸騰したかと思った。「契約完了。じゃあ行くよー」興奮が冷めるのを待たずに、桜花はステッキを構えると、ドイツ系発音の呪文を唱えながら桃色オーラを充填していき、「まじかるっ、みゅ――て――――しょんっっ!!!!」という台詞と同時に、ボクの頭蓋を見事に粉砕した。パステルピンクの靄の中で意識が踊り、全裸シルエットのボクにリボンと水着とブーツが装着されていく。最後にぞわり、と髪が伸びて、ハルベルトサイズのラメステッキを構え、ポーズ。拍手拍手。自室で練習していためめたんの変身シークエンスが、こんな所で役に立つなんて。鏡の中のボクは、瓶底メガネをかけつつも姿形はまったくめめたんのソレに酷似していた。しばらくその痴態に呆然としていると、不意に恐ろしい想像が訪れ――、ボクはフレアスカートの下にあるスク水地のウェア越しに、そっとブツを確認した。「…………ある」目の前の人物を見る。撲殺ステッキを持ったその人は、視線の意味に気付いたのか、フリルスカートをたくし上げ、「ご同業」と言って微笑んだ。はいてなかった。はえていた。その根本には指輪が1つ。

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