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 ――おしまい、おわれ


 「これくらいリスクが大きければ、あなたは簡単に能力を増やすことが出来ない。だから、死と隣り合わせになりながらも、限定的な状況が揃うまでは、そう言った行動に出てこなかった。違う?」飯泉は小首を傾げなら、僕の対応に目を凝らし、沈黙した。七海は、既にそれが肯定であると受け取ったのか、更に位置を下げて最新号のジャンプを抱き締めていた。……なんだ、こういう類の話は苦手だったのかコイツ。「なるほどね、筋は通ってる。僕がジャンクフードを食べないというのも、その影響で肉食じゃなくなった伏線だと、取れなくもない」ここで、飯泉は悟ったのか。少し顔色が曇った。「でも、気付いてるんだろ? 能力の記録解放……君らの言う『コピーキャット』という現象は、おそらく偶発的に僕が発見したモノだと。情報のトレースを出来る僕が、脳という限定的部位の摂取に固執して、食人という蛮行に到る――っていうのは、ちょっと無理があるよね。まして、肉島友邦の『二律背反』を吸収したとき、僕はそのやり方を確信しているわけだから、それ以前に能力者じゃない誰かの記憶と情報を採取していなければならない。それも複数人。この国はまだ、一介の学生がそんな大それた事を出来るほど、腐ってるわけじゃないよ」「……でも、あなたはそれを経験して、誰かを死なせているはずよ。それが解っていたはず。なら、」「飯泉、その説明は良いセン行ってるんだけれど、違うんだ。意識と記憶を吸収するには、対象者が生きてなければならない。生きたまま脳を食うのって、すごい大変だぞ。名人芸だ」「……食欲と、情報の摂取が直結してると思ったんだけど」「なるほど、背に腹は代えられないっていう心理状態なら、そう言うスキルも身に付いたかもね。……でも、違うんだ。これは、日常の延長みたいな行動で、その精神――魂という情報のカタマリを引き抜いたしまって――その結果、人が死んだ。そういうことなんだ。……だから、情報の『取り込み』っていうより、『吸い出し』って言った方が適切なのかも知れない」ここまで言って、七海の方を見やると、何だか青い顔をして、右手を口にあてがいながら、さっきとは違った様子で震えていた。「――わかった」その呟きが予想外だったのか、一瞬、飯泉が声にならない声を上げた。「お前、もう、それ、……言わなくて良いぞ」「そうも行かないさ。ここで黙ったら、飯泉は納得してくれない」「俺が後で説明しとく」「それじゃ誠意にならないだろ」「……ばっ、こ、こんな状況で、お前は、何を言って……っ!!」済ました顔で返答すると、七海は今度は真っ赤になって言葉を遮った。……気付いたのか、コイツ。頭、悪くないじゃん。「飯泉! ここは聞かないで置こうぜ? お嬢だって、コイツの発動条件も何も知らなかったんだしさ。知らぬが仏とか、沈黙は金とか、さ、サイレントまじょなんとかって言葉もあるぜ?」「……意味不明なんだけど」「だ、だからよ、ここは引いて、」「――飯泉、僕のトレースする条件が、対象者との物理接触だっていうのは知ってるだろ?」振り向く七海。僕は目線で制すると、納得の行かない顔のまま、乱暴に座り直した。飯泉は、僕らを不審の目で見ながらも、答える。「……ええ、聞いてるわ。触ったら無条件発動って訳じゃないらしい事も」「そう、僕は任意でこの現象を発動できる。キャラが被ってるって評判の帯沼友好くんは、視線で未来を読むんだったか。何にしろ、接触時間と距離を詰めれば信頼性が増すって言うのは同じだと思う」「……彼の解放は、眼球自体を発信源にして、視線が通った者を全て昏睡させることなんだけど」そりゃすごい。本来は発信に特化した能力だったって事か。「――じゃあ、似てるって話は撤回だな。僕のトレースする条件に話を戻して、詰めておこう。なるべく近い距離で、広い面積、長い時間触れていれば、情報は確実にスキャンすることが出来る。で、その読みとる場所は、どこでも構わない。指をくわえたり、背中を触って貰うだけでも良いんだ。神経が有る程度通ってる場所じゃないと難しいけどね」「……じゃあ、右手で相手に触れるとかの条件は、無いってこと?」「そう。いつも使っているのは、それが一番慣れた行動だからって理由にすぎない。『どこ』で、『どう』触れ合っても、構わないんだよ」そう強調すると、七海は俯いて、何も言わなくなった。表情は解らない。飯泉は戸惑っている。僕は……誤解される犯人役というのも乙で良いかな、と思い始めた。妙に清々しい気分だ。これなら、崖に向かって喜んでダイブしたりも出来るだろう。さっきの焼き直しをするかのように、今度は、僕が、彼女に向かって、言った。自分の胸に手を当てながら、誌を吟じるように。

 「僕は、能力を吸収する際、対象者と姦通していなければならない」

 伝わりづらい言葉を選んでしまったかと思ったが……飯泉はそれでも気が付いたらしい。年端も行かないガキが、自分の能力の特殊さに奢って、どんな接触方法を試したのか。最も敏感な部分と、最も脆弱な部分で交われば、より深い部分の情念と、快感を汲み取れるのではないか。そう思って、自分の全てを受け入れてくれた、世話焼きなクラスメイトに、一体何をしてしまったのか。記憶と精神を全て抜き出された人間が、どんな形で死を迎えるのか。自己を肥大させ、特異な能力に慢心していた自分が、そこで何を思い知ったのか。初恋が、どう終わったのか。どこまで察したのかは解らない。七海は泣いていた。飯泉は、ただ動揺していた。僕は、おそらく、意味不明なほどに微笑んでいた。

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