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 ――おしまいへんのつづき

 「最初に説明して置くけどさ、僕は峠午前を殺した訳じゃない。それは、解るよね?」「当たり前だろ。あの状況でアイツをぶっ殺したら、その時点で手袋になっちまった木乃葉は死亡。お嬢は精神崩壊。俺らが暴走して蜘蛛は解散。マジ、ムカツクほどに最悪なルートだ」「その通り。それに、僕が攻撃的な意志を見せた瞬間、自身の敗北を認めてしまった久我峰は、絶対的な威力で止めに入るだろうからね。七海はマチって形容したけど、アイツの能力と、能力を扱うプレイヤースキルは尋常じゃない。僕なんか瞬き1つせずに殺されてしまうだろう」「……それは、あなたが本気を出さなければ、の話でしょう?」飯泉は、プリーツスカートを行儀良く折り畳んで、僕の向かいに座り込みながらそう言った。「どうも過大評価されているようだけど、僕の戦闘能力なんて知れたもんだよ。単純なケンカなら、そこらの男子学生の方がよっぽど強い。君たちが帯沼友好の視点にどれだけ聞かされたか知らないけれどね、この能力の発動条件って言うのはとんでもなく厳しいんだ。使うには、それなりの準備が必要になる」「知ってるよ。だからクロロだっつってんだ」七海が僕の語尾を遮って言った。……ああ、なるほど。コイツは、言われるまでもなく、僕の能力の本質に気が付いてやがったのか。「『コピーキャット』って私達は呼んでるけどね。他人の精神を、物理的接触でトレースし、状態の本質を掴む。コレがあなたの表向きの能力解説だけど、それだけで久我峰透の友人は務まらない。つまり、トレースしたモノを再現、再構築出来る手段が有って、あなたはそれを彼に使った。……そうなんでしょう?」「――『まねっこ』、か。そいつは言い得て妙な名称だね。僕は単純に『記録解放』って名付けてたから、それも考えておくよ」苦笑して、僕は常備しているはずのミネラルウォーターの瓶を探し、その栓をひねって一口含んでから、続きを話した。「さっきの七海じゃないけど、ジャンプ漫画で例えるところのカカシ先生みたいに捉えられてるフシがあるから、まずそいつを否定しておこう。そんな便利なことは出来ない。僕の能力ベースは飽くまでも『状態の読み込み』で有って、その出力というのは例外中の例外なんだ。じゃなきゃ先の戦闘で、僕が致命的な足手まといになんかなる訳がないだろう? 僕が解放……再現できるのは、2つ。肉島友邦の『二律背反』と、有賀未明の『絶対命令権』だけだ」2人の顔色が変わる。それはそうだろう。今挙げた能力者は2人とも既に死亡していて、しかもその保有能力は信じがたいほどに強大、かつ悪質なモノだったからだ。「……どっちも、精神攻撃系のハイエンドじゃねえか。前よりもインパクトが強烈になったぜ、お前」「そんな目で見んな。言っただろ、発動条件が厳しいんだって。それをお前に使うなんて有り得ないと思うけど、使うとなったらスグに解るから問題ないさ。秒殺だ」「……ということは、タメが長い……ロードには時間が掛かるって解釈して良いのかしら」「その通り。解放した記録が同着するまでには、かなりの時間が必要になる。そこは完全に無防備だから、不意を打たれたり、超スピードで戦われたりしたら話にならない。相手が……あの峠午前だったから適用できた手段だよ」2人は沈黙する。呆気に取られていると言うより、今回の仕掛けについて見当が付き始めたから、その整理に忙しい……といった所だろう。「じゃあ……、コレしかないな。お嬢が泣き崩れるか呆けるかしてる間に、お前が別室に呼び出すか何かして、妹さんの『目』を使う。肉島の精神汚染じゃ、あの野郎のジレンマなんて引き起こせないだろうからな。それで今の状況ってことか」「おおむね正解、として置こうか。実際は峠午前が自ら僕を招いてくれて、発動時間中も散々長広舌を振るっていたというオチなんだがね。あいつは、自分が死ねばゲームオーバーっていう仕組みを過信していたから、ナイフ1つ持ってなかったよ。非常にあっけなかった。『目』で脳回線をフルに開いた上で、彼女の治療を要求する。後は皮肉ながら、アイツの腕を信じつつ、久我峰の精神的回復を待てば良いって寸法さ」出来るだけ気楽そうに言ったが、実際はそう楽観できる状態ではない。生まれて初めての敗北を喫した久我峰の傷は深いし、峠午前が施術した渾身の作品……木乃葉在良の生命形態を復元するのは、極めて難しいだろう。それに……彼女が、久我峰の「痛み」として存在し続けること自体には代わりがない。そう言う意味で、事この状況に置いても、峠午前の計略は成っているのだ。僕は、考え得る最良の手を打ったつもりだったが、それが自体の回復に繋がるかどうかは、天に祈るしかない。……確かに、敗北だった。
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