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 ――ライフ・ログ・アウト (おしまいへん)

 「いよー兄弟」軽薄な笑いで、七海尊士が僕を呼んだ。……どのくらい眠っていたのだろう。昨日まで初夏に近かった暑さが、今は完全に引いたようで、仮眠している間に相当な体力が奪われてしまっていた。少し――身体と心が痺れている。「寝てんのか? 寝てたら踏みつぶすぞ」「…………起きるよ」しぶしぶそう言って、フォールを逃れたプロレスラーのように右肩を上げる。目隠しにしていたタウン誌を落とし、胸ポケットから眼鏡を取って、ピンボケした世界に焦点を合わせ、数秒。……、よし。「起きたぞ」「良い反応だ」七海はそう言って、今週号のジャンプを小脇に抱えたまま、僕の横へと座り込んだ。内容は既にチェックしていたのか、一呼吸経ってもそれをめくろうとはせず、僕と視線を合わせないまま、まず呟いた。「悪かったな」「やめてくれ、気持ち悪い。お前の口からしおらしい言葉が出ると、僕の世界まで終わってしまいそうだ」「いや、今回は、――今回ばかりはな、みんなお前に感謝してる。っつーか、負い目を感じてる。その総意だと思ってくれや」力無く笑って、七海は遠くのビル街……おそらく、前回の戦場か、峠午前の白林病搭を見やりながら、続けた。「お前以外には出来なかった。今回のことは」「……だろうね」「だからよ、解説して欲しいんだ。お前が、どうやって峠午前を堕としたのかを」雰囲気が変わった。季節通りの風が、心持ち寒く感じる。七海は、自慢のハリガネ金髪を梳いてから、見たことのない真顔で僕の反応を窺っていた。「幻影旅団」「……え?」「HUNTER×HUNTERくらい読んでんだろ? 俺はこの8人のこと、『蜘蛛』って呼んでるからよ」……いや、真顔で言う割には、結構面白いことカミングアウトしたぞ、今。「例えるなら、俺がノブナガで飯泉がシズク、幽全がフェイタンで、お嬢がマチってところだな」「本編の設定と、ずいぶん食い違うな。それに、久我峰はどう考えても頭だろ。クロロじゃないのか?」「俺は、能力の種別で言ってるんだよ、単純に。そして、その言い方だと……この旅団のクロロ・ルシルフルは、お前って事になる」……こぅ、と風が吹く。反論を許さない、といった様子で僕をみる七海。そして、いつの間にかもう1人。「私も、聞かせて欲しいな」初めて見る、セーラー服姿の『干渉者』――飯泉式がそこにいた。学校に、この伝説の不登校児が現れたと言うことは――、たぶん、帯沼友好の透視を使って来たんだろう。「なら、仕方がないな……」この2人にならば、確かに話してしまったかも知れない。いや、もうその気になってしまっていたし、いずれ露見してしまうことだ。胸に留めていた靄を、お言葉に甘えて、吐き出させて貰うとしよう。僕は、掃き清められたかのように綺麗な、それでいて微かに雲が引く5月の空を見上げ、静かに息を吸った。語り始める。

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